解雇を行う際に気を付けるべき事

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「君、明日から来なくていいから」

 

小学生時代、両親が見ていたドラマの一コマです。
当時、世の中を騒がせた『リストラ』から始まり、肩を叩かれると解雇される『肩たたき人事』等々、バブル崩壊から不吉なワードがニュースに並ぶのを眺め、明日は我が身・・と、ホラー感満載なセリフをリポーターに伝える街中サラリーマンの姿は、今でも記憶に残っています。

   

結論から言ってしまえば、『出来ません』。

ただし、労働基準法第21条に定められたケースに該当した場合や、『天災などの緊急事態で事業の継続が不可能』、『労働者側に重大又は悪質な過失がある』場合に労働基準監督署がやむを得ないと認めた時には例外となり得ますが、日常的に頻発するか、と言われてしまえば首を傾げるのではないでしょうか。

どれだけ問題を起こす従業員であったとしても、例外に該当しない者を『お前なんてクビだ!!』と感情に任せて行ってしまえば、それは十分な労働契約法違反となります。

古いドラマ等で見かけるそれらは、所詮はフィクションの中でのお話でしかないのです。

では、ここからはフィクションの世界ではなく、現実のお話をしていきましょう。

       

事業主が解雇を考えるケースとして、以下の様な事が多く上がります。

能力的に業務についていけず、また指導しても改善がみられない
反抗的な態度が目立ち、他従業員、お客様等に迷惑がかかっている  等

会社として人と人との信頼が重視される以上、深刻な悩みですよね。
解雇を実行した場合のメリットとしては、そういった問題となった従業員との縁が切れる、という部分になるかと思われます。


しかし、『解雇』という強い権限を使う上でそれ以上のデメリットが想定されます。

不当解雇として訴えられる場合
一部の助成金に影響する場合
従業員との信頼関係に亀裂が入る場合   等

当たり前ですが、少しでも実績が落ちた、意見が合わなかった、等の理由で直ぐに解雇へ踏み切ってしまえば、他の従業員が会社への不信感を抱き、やめてしまう原因にもなります。

あくまでも解雇は、最終手段である事をしっかりと認識しましょう。


労働契約法 第3章 第16条より
〝解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。〟
 引用:e-Gov 法令検索 

ざっくり言ってしまうと、『正当な理由もないのに解雇しても無効ですよ』という事を定めています。先のデメリットでもお伝えしましたが、客観的に見ても正当性が分からない事に対して権利を振りかざせば、信頼を損ないます。状況によっては不当である事を訴えられ、賠償等が発生する事もあります。
では、そうならない為にはどうしたらいいのかを解説いたします。

従業員と話し合い、改善の機会を与えましょう。


何事も、まずはコミュニケーションから。問題行動が目立つ従業員に対し、『何が問題なのか』、『どういった被害、実害が出ているのか』『どう直してほしいのか』具体的に話し、改善を促しましょう。ひょっとしたら、従業員は自分が問題行動を起こしている、と自覚していないかもしれませんので、これによって改善されるのであれば解雇まで考える必要はないでしょう。
この際記録を取っておくと、残念ながら解雇という判断をする際の『正当な理由』の一つとして使用できます。始末書などの書面を提出してもらう事も有用でしょう。
ただし、強制的に書かせる行為は違反ですので、絶対にしてはいけません。


解雇予告通知を行う


何度も注意したにも関わらず改善が見られない場合には、残念ではありますが解雇という判断を下すこともあるでしょう。

労働基準法 第2章 第20条
“使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。”
 一部抜粋:e-Gov 法令検索

会社側が労働者に対して守らなければならない労働基準法において、解雇予告は解雇する日から30日より前に通知する事を定めています。上記法に則り、解雇予告通知を行いましょう。
通知方法については明確な規定がされていない為、口頭で行ってもいいでしょう。しかし、後にトラブルとなる事を危惧するのであれば、書面等の証拠に残るものが好ましいです。




無断欠勤は解雇理由になります。

しかし、ただ数日間連絡が取れないから、すぐに解雇とするのではなく、必ず就業規則にてその場合の規則を定める必要があります。
この際にも解雇通知書の発送等、状況に応じた対応が必要となります。

 

労働基準法 第2章 第21条より
〝前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。

 日日雇い入れられる者
二 二箇月以内の期間を定めて使用される者
三 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者
四 試の使用期間中の者〟
                         引用:e-Gov 法令検索 

 

『解雇予告通知を行う』でお伝えしました労働基準法の続きです。
簡単にまとめると、下記の場合は解雇予告手当の対象に含めなくてもいいものとして定められています。

 

①日々雇い入れられる方(ただし、一ヶ月を超えて働く人は除く)
②契約期間が2か月以内の方(ただし、契約期間を超えて働く人は除く)
③4か月以内の季節的業務に従事する方(ただし、契約期間を超えて働く人は除く)※
④試用期間中の方(14日を超えて引き続き働く人は除く)

※季節的業務とは、夏の海水浴場の業務、冬の除雪作業など季節ごと、時期事に発生する業務の事を指します。

  

 とはいえ、従業員が継続を希望しているにも関わらず、『法律が良いと言っているから解雇だ!』としてしまうのは、やはりトラブルの元です。法令上の例外とされている場合でも、一度しっかりと従業員と話し合い、今後のすり合わせを行う事がよいでしょう。
 また、この法令に本当に該当しているのか、は慎重に見極める必要があります。お近くの労働基準監督署や専門家へ確認し、出来る限り円満な解消を心掛けましょう。


どんな理由があろうとも、解雇は重い決断です。

一人で考え、その決断を下す前に、

本人と話し合う事、周囲や専門家に相談する事を忘れないようにしましょう。