所定始業時刻より前のタイムカードの打刻は、その時刻から労働時間?

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労働時間の管理については、日々1分単位で行わなければなりません。そこで、前出の相談となるわけですが、この場合どのように取り扱うのでしょうか。

まず、タイムカードに記録されている時刻は、必ずしも労働していた時間であるとは限りません。使用者が、所定始業時刻の前から、その労働者に労働することを義務付けていたかどうかです。

また、使用者の指示により、就業に必要な準備行為として、例えば、着用を義務付けられた所定の服装への着替え、清掃、朝礼等を、事業場内において行った時間は、労働時間に該当します(参考:「三菱重工長崎造船所事件」最高裁、平成12年3月9日判決)。

そこで、所定始業時刻前の出勤について、関連する裁判例の判決要旨から見てみましょう。

〇八重椿本舗事件(東京地方裁判所、平成25年12月25日判決)

「(略)始業時刻前の出社(早出出勤)については、通勤時の交通事情等から遅刻しないように早めに出社する場合や、生活パターンから早く起床し、自宅ではやることがないために早く出社する場合などの労働者側の事情により、特に業務上の必要性がないにもかかわらず早出出勤することも一般的にまま見られることであることから、早出出勤については、業務上の必要性があったのかについて具体的に検討されるべきである。(略)」

〇大作商事事件(東京地方裁判所、令和元年6月28日判決)

「(略)もっとも、始業に関しては定時に間にあうように早めに出勤し、始業時刻からの労務提供の準備に及ぶ場合も少なくないから、ログ記録に所定の始業時刻より前の記録が認められる場合であっても、定時前の具体的な労務提供を認定できる場合は格別、そうでない限りは、基本的には所定の始業時刻からの勤務があったものとするのが妥当である。(略)」

前出の質問に戻りますが、その事業者は、労働者に対して労働や準備行為の指示はしていません。よって、この裁判例の要旨にもあるように、始業時刻からの勤務といえます。

それでは、いつもギリギリに出勤する労働者に対しては、どのように注意すればよいでしょうか。

使用者からすれば、所定始業時間から、各自最高のパフォーマンスで労務提供をしてほしいものです。エンジン全開です。ところが、ギリギリ出勤者は、始業時刻にエンジンキーをスタートさせますから、そこからエンジンを暖気させ、慣らし運転の時間も必要です。使用者にとっては、余裕をもって出勤する他の労働者もいる手前、歯がゆい思いです。

このような場合、始業時間前の出社を義務づけるような表現、「早めに出勤」「もっと早く出勤」などは、労働者に誤解を招くことになりかねません。

所定労働時間から、常に、皆に心配をかけることなく、安心して勤務できる環境を作るために、時間どおり確実な労務提供ができるようにすること、また、朝ラッシュによる電車の遅延や、雨天の道路混雑によるバスの遅延も考慮して出勤すること、などのような表現を心がけることです。

また、電車やバスを使って通勤する者が、公共交通機関が発行する遅延証明書の提出することがあります。この取り扱いについては、事業主は遅刻として、その時間分の賃金を控除することができます。理由の如何を問わず、所定始業時刻に間に合わなかったのですから、ノーワークノーペイの原則です。

なお一般的に制度を変える場合は、常に労働者にとって不利益変更に該当するかどうか注意してください。