「ワーク・エンゲイジメント」。このことばは、オランダ・ユトレヒト大学のW.B.シャウフェリ教授、A.バッカー特任教授などの研究チームが、2004年に定義した当時は学術用語に過ぎませんでした。今では、労務分野において一般的に浸透しつつあります。シャウフェリ教授は、ワーク・エンゲイジメントを研究する以前は、その対極の概念である「バーンアウト」(燃え尽き症候群)に関する研究をしていました。
ワーク・エンゲージメントは、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、活力、熱意、没頭によって特徴づけられる。ワーク・エンゲージメントは、特定の対象、出来事、個人、行動などに向けられた一時的な状態ではなく、仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知である。
活力、熱意、没頭の3要素により構成される持続的な状態です。
「活力」とは、就業中の高い水準のエネルギーや、仕事で傷付いても立ち直ることができる回復力、仕事に対する努力をいとわず、粘り強い取り組みに特徴づけられます。ストレスを感じにくいため、仕事を楽しみながら行います。活力が十分あれば、多少のストレスも回復が早いため、業務への支障はほとんどありません。
「熱意」とは、仕事への深い関与、仕事に対する意味を持ち、意義を感じ、誇り、挑戦に特徴づけられます。業務改善や新商品開発などにチャレンジすることから、会社の業績アップにつながる要素です。
「没頭」とは、仕事に集中し、幸福感があることから、時間経過の速さ、仕事から離れることの難しさなどに特徴づけられます。長時間集中できることにより正確性が高まるため、人為的なミスが軽減されることになり、ひいては作業効率改善、生産性向上につながる要素です。
さらに、ワーク・エンゲイジメントと、関連する概念の特徴、類似点や相違点を分析することによってわかりやすくなります。日本でのワーク・エンゲイジメント研究の第一人者である慶應義塾大学・島津明人教授は、産業ストレス研究(日本産業ストレス学会、2009年)で、「活動水準」と「仕事への態度・認知」の2つの観点から発表しています。
活動水準【高】、仕事への態度・認知【快】 ワーク・エンゲイジメント
活動水準【高】、仕事への態度・認知【不快】 ワークホリズム
活動水準【低】、仕事への態度・認知【快】 職務満足感
活動水準【低】、仕事への態度・認知【不快】 バーンアウト
ワークホリズムは、決して良いものではありません。
同じ活動水準が【高】ですが、楽しんで働くワーク・エンゲイジメントに対して、ワークホリズムはやらされて働かされている傾向にあります。それぞれ肯定的、否定的といえるその差が、仕事への態度・認知で、前者は【快】、後者は【不快】に分類されます。
また、同じ仕事への態度・認知【快】ですが、仕事「をしている時」のワーク・エンゲイジメントに対し、職務満足感は仕事「について」、仕事「に対する」という仕事そのものです。
・・・・・・・(出典:『新版ワーク・エンゲイジメント』島津 明人(労働調査会)2022年)
動と静との違いとも言えます。
健康管理を経営的視点から戦略的に実践しようと、健康経営についての認識が高まってきています。
以前は、欠勤や休職をすればそこにいないと、わかりやすく判断できました。
ただ、特にコロナ禍の今では、何らかの疾患や症状などを抱えて出勤していたとしても、見た目では判断がつきにくいこともあり、業務遂行能力や労働生産性が下がっていても、その要因がわかりづらくなっています。テレワークもそうです。丸1日顔も見ず、声も聞かずでは、心身ともに健康かどうかもわかりません。
冒頭に記載しましたが、シャウフェリ教授はワーク・エンゲイジメントの対極概念であるバーンアウトを研究していました。なぜ正反対の概念を研究することになったのか、それはバーンアウトではない状態をもってイコール幸せであるとは必ずしもいえないということです。ワーク・エンゲイジメントとバーンアウトは、反対の概念ではあるものの、一次元の線上にあるものではなく、全く別々に存在するという研究結果です。
このように、バーンアウトしていないから「良し」ではありません。
まずはあなたの職場の皆さんで、やらされ感のある仕事からやりがいのある仕事に変えていきませんか。