4月1日から、中小企業においても、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率(以下、割増率)が引き上げとなり、50%以上の率としなければなりません。月60時間以下の割増率については変更ありません。
これまでは、法律(労働基準法第139条)により中小企業の適用が猶予されていましたが、2018年7月6日法律第71条(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)によって、今年2023年4月1日からは中小企業の適用猶予措置が終了することとなりました。
これにより、月60時間を超える時間外労働の割増率を50%とする事業主が、月60時間を超える時間外労働を深夜(22時から翌5時まで)に行わせた場合、時間外割増率50%に、深夜割増率25%を加算した割増率75%を支払うことになります。
なお、月60時間の時間外労働時間には、法定休日に労働させた時間は含みません。
さて、この月60時間を超える時間外労働をさせた労働者に対して、健康を確保する観点から、割増率引上げ分の割増賃金の支払いの代わりに、有給の休暇となる代替休暇を付与することができます。
代替休暇を付与するためには、労使協定の締結が必要です。
労使協定には以下の事項を規定します。
1、代替休暇として与えることができる時間の時間数の算定方法
『代替休暇として与えることができる時間の時間数』=『1か月について60時間を超えて時間外労働をさせた時間数』×(『労働者が代替休暇を取得しなかった場合に支払うこととされている割増賃金率』-『労働者が代替休暇を取得した場合に支払うこととされている割増賃金率』)
2、代替休暇の単位
(1)1日または半日
1日は労働者の1日の所定労働時間、半日はその2分の1です。両方または一方を代替休暇の単位として定めます。
なお、半日は厳密に1日の所定労働時間の2分の1でなければならないということはありません。半日を1日の2分の1としない場合はその定義も定めます。
(2)代替休暇の単位(1日または半日)に達しない場合
「代替休暇以外の通常の労働時間の賃金が支払われる休暇」と合わせて代替休暇を与えることができる旨を定めたときは、その2種の休暇を合わせ、代替休暇の単位(1日または半日)の休暇を与えることができます。
3、代替休暇を与えることができる期間
時間外労働が1か月について60時間を超えた月の末日の翌日から2か月以内です。
1か月を超える期間を定めた場合は、前々月および前月それぞれの時間外労働に対応する代替休暇として、1日または半日となる代替休暇として取得することも可能です。
4、代替休暇の取得日及び割増賃金の支払日
(1)代替休暇は、対象労働者に対して取得を義務付けるものではありません。また代替休暇を取得するかしないかは、対象労働者の意思によります。よって、対象労働者の取得の意向について、当該月の末日からできる限り短い期間内で確認します。そして代替休暇の取得の意向があった場合、代替休暇とする日は対象労働者の意向を踏まえます。
(2)1か月について60時間を超える時間外労働に係る割増賃金の支払日は、労働者の代替休暇取得の意向によって異なります。
①代替休暇取得の意向がある場合
現行でも支払義務がある割増賃金を、当該賃金計算期間に係る賃金支払日に支払います。
このとき、意向があったものの、実際には代替休暇が取得できなかったときは、引上げ分の割増賃金を、取得できないことが確定した賃金計算期間に係る賃金支払日に支払います。
②代替休暇取得の意向がない場合、取得の意向が確認できない場合
引上げ分も含めた割増賃金すべてを、当該賃金計算期間に係る賃金支払日に支払います。
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割増率の引上げ分も含め割増賃金を支払った後に、当該労働者から代替休暇を取得する意向があった場合の取扱いについて補足します。この規定は任意です。
a)代替休暇を与えることができる期間として労使協定で定めた期間内であっても、「労働者は代替休暇を取得できない」旨を労使協定で定めることができます。
b)代替休暇を与えることができる期間として労使協定で定めた期間内であれば、「労働者は代替休暇を取得できる」旨を労使協定で定めることができます。この場合、労働者が実際に代替休暇を取得したときは、「すでに支払った法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金について精算する」などと労使協定に追記して定めることも可能です。
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最後に、労使協定を締結し代替休暇を実施する場合は、就業規則の絶対的必要記載事項である「休暇」、「賃金の決定、計算及び支払の方法」などに該当しますので、規定しなければならないことにご注意ください。